2008年10月27日

偽書太平記 第4部前編

偽書太平記 第4部前編

 豊島河原の戦いの後、足利勢は播磨の赤松円心に迎えられて一息つくこととなった。軍勢の被害は大したことは無かったが、根拠地である関東からは遠く切り離され、宮方との決戦に敗れたという印象もまた彼らの意気を挫いていた。

赤松円心「まぁまぁ、なに暗い顔してるんですの?そんな顔してたんじゃ、運まで逃げていきますよ?」
足利尊氏「ええ、それはそうでしょうけど・・・」
高師直「何分、敗残の身ですから・・・」
赤松円心「敗残?なにを弱気な。これは戦略的転針というんです。負けたうちに入りません。一休みしたら、このまま九州に向かってくださいな。あそこを押さえれば、まだまだ逆転可能なんですから」
足利直義「でも、宮方も馬鹿ではないでしょう。恐らく、追撃を試みるのでは・・・」
赤松円心「・・・さぁ、それはどうでしょうね。まあ、来たところでわたくしが食い止めますから問題ありませんわ。後ろの心配は無用ですわよ?」
足利尊氏「しかし、それでは・・・」
赤松円心「ふふっ、伊達に長いこと播磨に地盤持ってる訳じゃ無いんです。守りに入った主婦がどれだけ恐ろしいか、京都のお馬鹿さん達にも教えてあげましょう」
足利尊氏「・・・(こ、怖い・・・)」

 一方その頃、京都では正成らが心配した通りの事となっていた。

後醍醐天皇「おほほほほほほ、勝利ですわ!大勝利ですわよ!正義は我にあり、所詮お馬鹿な武家なんてあんなものですわっ!!」
北畠親房「・・・」
楠木正成「・・・」
新田義貞「・・・」
北畠顕家「・・・」

北畠顕家「父上!父上がついていながら何てざまなんだよっ!これじゃ、ボク達が戦った意味がまるで無いじゃないか!」
北畠親房「・・・そう言ってくれるな。最近では、お上は私の言葉を聞きたがらんのだ。文観あたりの坊主連中や甘いことばかり言う若手の公家のお追従ばかり喜んでなぁ・・・」
北畠顕家「でもっ!」
楠木正成「・・・顕家殿、もうよしましょう。ここで喧嘩しても何にもなりますまい」
北畠親房「・・・くっ・・・」
新田義貞「尊氏殿の動静は?」
楠木正成「播磨の赤松殿のもとで給養した後、九州に向かったという話です。恐れていた通りになった・・・」
北畠親房「九州の武家方を糾合して再攻勢を掛ける気か。しかし、関東を地盤にした彼らが九州で態勢を立て直して、か。気宇壮大というか・・・大したものだなぁ」
北畠顕家「恐らく、海運で力を蓄えた赤松の考えだね。関東の武家から出てくる発想とは思えない」
新田義貞「・・・尊氏殿が九州に根付いてしまったら取り返しが付かない。その前に勝負を決めないと」
楠木正成「それはそうですが、何か巧い手が?」
新田義貞「・・・あたしは頭悪いからいい手なんて思いつかないけど、ここは単純に尊氏殿を追撃すればいいんじゃないかなあ」
北畠顕家「追撃、かぁ・・・陸路にしろ海路にしろ、恐らく播磨で赤松が阻止してくると思うけど」
新田義貞「うん、多分ね。その時は、全力で赤松殿と戦えばいいと思う。尊氏殿、仲間を見殺しにできるような性格じゃないし」
北畠顕家「・・・なるほど・・・」
楠木正成「確かに、赤松殿が苦戦しているとなれば、足利殿も九州にかまけている場合ではないかも知れない。九州制圧に手間取っている間に播磨が崩れれば、再攻勢どころか九州に押し込められることになりかねない」
北畠親房「それに、赤松を見殺しにしたとあっては、足利の声望にも傷が付く。いや、なかなかの好手かもしれない。よし、その手でいこう。私からお上に話をつけてみる」

後醍醐天皇「・・・で、新田さんを総大将に、全軍で足利さんを追う、と」
北畠親房「はい。恐らく赤松が阻止を図るでしょうが、その場合はまずこれを叩きます」
後醍醐天皇「で、都の守りは?」
北畠親房「それは後回しで良い、と楠木殿たちは判断しています。東の武家方は様子見に徹していますし、この状況で都を襲ってくる余力がある者などおりますまい」
後醍醐天皇「うーん・・・親房さんの言うことも分かるんですけど、文観とかが五月蠅いのよねえ。あの人たちチキンだから、見えるところに護衛がいないと文句ばっかり言うのよ。日頃武家の事馬鹿にしてるくせに」
北畠親房「ですから、ああいうお追従ばかりの取り巻きの言うことなど・・・」
後醍醐天皇「でも、ああいう人たちもいないとお仕事にならないでしょう?ただでさえ人材不足なんですし」
北畠親房「それはそうですが・・・しかし・・・」
後醍醐天皇「・・・やっぱり、悪いけど全軍は無理ですわね。都を守る兵力は残した上で、動かせる部隊は自由に使って構わないから、それで我慢してくださらない?」
北畠親房「・・・はぁ・・・」

 しかし、結局西征に用意された兵力は、宮方の総力にはほど遠いものだった。
 文観ら後醍醐天皇の側近が都を無防備にすることを恐れた、ということもあったのだが、大きかったのは寵姫阿野廉子の強力な進言だった。天皇の手元に戦力が無いというのは危険だ、と説いたのだった。

新田義貞「・・・で、これですか?」
楠木正成「・・・」
北畠親房「・・・申し訳ない・・・」
北畠顕家「・・・お上は勝つ気がないの?」
北畠親房「お上も話が分からない方ではないのだが・・・どうも周りに流されすぎというか・・・」
楠木正成「・・・(阿野廉子、か。恐らくは・・・)」
新田義貞「まあ、何もしないよりはマシだよね、きっと・・・」

 世に、「新田義貞は愛人との別れを惜しんで時期を逸した」などと批判されることが多いが、これは根拠のない誹謗中傷の類に過ぎない。追撃軍の編成に手間取ったのが実情で、これらは義貞の責任でも何でもなかった。すったもんだの末に義貞は兵3万程度を率いて出陣したが、案の定というか何というか、播磨に入るなり赤松勢の粘り強い抗戦に遭って苦戦を強いられる事となった。殊に赤松家の本拠地白旗城は難攻不落の堅塁であり、ここに立て籠もった赤松親子の前に新田軍は釘付けにされ、身動きが取れなくなってしまう。
 一方、播磨から西に向かった足利軍は、途中九州四国の武家方の出迎えを受けながら一路九州を目指していた。

高師直「赤松殿より書状です。当方益々意気盛んにつき心配ご無用、とのことです。それから、こちらは近江の佐々木殿からの書状ですが」
足利尊氏「佐々木殿?見せて見せて・・・」
足利直義「何て書いてあるの?」
足利尊氏「・・・朝廷対策はワタシにお任せ、って。どういう意味だろ・・・」
足利直義「・・・多分、帝の側近を動かすんじゃないかな。佐々木殿、阿野廉子とか、文観とか、あのへんの欲ボケ連中と仲いいから。味方の振りしてあることないこと吹き込む気だと思う」
足利尊氏「・・・喰えないっていうか、敵に回したくはないわね、あの人・・・」
高師直「・・・あと、九州の情勢がはっきりしてきました。ご覧ください」

 九州では肥後の菊池氏が随一の勢力を誇っており、これに筑前・肥前の少弐氏、豊後の大友氏らが対抗していた。特に菊池氏と少弐氏は仲が悪く、先の倒幕の際には真っ先に宮方の檄に応じて挙兵した菊池氏が幕府の出先機関鎮西探題を攻撃したものの幕府側についた少弐氏の反撃で敗退、その直後に尊氏が挙兵するや少弐氏が呼応し鎮西探題を滅ぼす、というドタバタを繰り広げている。元々少弐は足利と親しく、菊池は宮方に近かった。菊池氏の当主菊池武重は新田義貞と親しく、箱根竹ノ下の戦いにも従軍して奮戦している。

高師直「という訳で九州では今のところ菊池氏が旗頭の宮方が優勢ですが、少弐氏は古来からの名門ですからその声望も高く、何かきっかけがあれば状況は一変すると思われます」
足利尊氏「つまり、一戦して勝てばいい、ということね」
高師直「はい」
足利直義「既に少弐氏を中心とする軍勢が、あたしたちを出迎えに集結しているという話だし。十分活路は開けると思う」
足利尊氏「・・・赤松殿は頑張ってくれてるけど、いつまでももたもたしてられないわね。一刻も早く九州を押さえて反撃に転じなければ・・・」
posted by 風祭万里 at 14:25| 埼玉 曇り| Comment(0) | TrackBack(0) | 未分類 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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